戦いのときは、身の本能が露わとなる。昂ぶった身体が鴆を求めてなお滾るというなら、何も迷うことはない。
 まだ何か言いたげな唇を、口付けで塞ぐ。宥める仕草で優しく唇を押し当て、リクオの体温を感じると、リクオもまた、鴆を感じているのが伝わってくる。
「……んっ……」
 甘えるような吐息が耳を打って、背筋を撫で上げる。
 触れていながら餓えを感じるのは常のことだ。触れれば触れるほど欲しくなり、抱けば抱くほど情欲は募った。もっと深くと唇を開けば、リクオの方から舌が差し入れられた。
「……っん、……鴆、っ……」
 気が付けば、リクオの両腕も鴆の首へ廻されている。互いの身を傾けて舌を絡め、舌先を嬲り合って、みるみる息遣いが乱れていく。常より激しく求められ、鴆も半ばから余裕を失った。
「……っ、リクオ、」
 長い口付けの後、荒れた息もそのままに名を呼んだ。
 色めかしく蕩けたリクオの眸が、鴆を映す。
「……鴆、」
 掠れた声を聞きながら、喘いだリクオを畳へと押し倒した。
「鴆、」
 従順に身を横たえ、仰向けになった情人が見上げてくる。譫言のような呟きも、上下する胸元も、薄く開いたままの口元も鴆を挑発して、身体が一気に熱を帯びた。
 覆い被さる格好で見下ろし、着物越しに身体の輪郭をたどる。胸から脇腹へ、腰から腿の付け根へ、掌でわざと素っ気なく掠めるだけで、もうリクオには十分だった。焦れた身じろぎとともに、色付いた吐息が零される。
 そのまま下腹へと掌を滑らせれば、既に兆した熱が触れた。思わず顔を上げると、リクオは視線を厭うよう顔を背ける。
「リクオ、おめえ……」
「言ったろうが。……どうしちまったのかわからねえって」
 少し怒ったような声が、常より速い口調で鴆を遮った。
「もしか、リクオ……」
「鴆!」
 皆まで言わせずリクオは語気を強め、合点した鴆は後を呑み込んだ。
 着物すべてをはだけてやれば、欲望の輪郭は露わになって、リクオが小さく身を震わせる。
「……ままにならないその身が、そんなに怖いか?」
 素膚へと触れながら、鴆はリクオ自身へと顔を伏せた。
「……そんなんじゃ、ねぇ、……よ、」
 濡れた音をたてて、屹立を口へと含む。舌を這わせれば、リクオの声が揺れて途切れた。唇で愛撫して、細い腰を跳ねさせる。戸惑ったように伸ばされたリクオの手が、鴆の髪へと指を潜らせた。
「……ぁあ、……ぜ、んっ、……待て、って……」
「なあ、……これ以上いい気にさせるなって……、言ったろう」
「……っ、あ、はぁっ……、っや、め……っ」
 先の括れを舌で弄れば、鴆の戯れのまま小刻みに背が反り返る。溢れる蜜が、リクオの果てが近いことを隠さない。
「オレを思って、……ずっと滾っていたんだろう?」
「……だ、から、言うなって、……ぁっ……ん、最初っからそう、……言ってる、じゃねぇか……んっ、……鴆、」
 堪えきれずに喘ぎ、けれどリクオは腕に力を込めて、鴆の行為を止めた。
「……なんだ? リクオ、こんな……」
「……怖いかと、……そう、言ったな鴆……?」
 促されて身を起こせば、淫らに息を乱したリクオが、無心に鴆を見上げた。
「……ああ?」
「……お前がいれば、……そんなの関係ねぇ、鴆」
 誘うように伸ばされた指が、鴆の濡れたこめかみに触れる。恍惚を宿しながら、眼差しはまっすぐに鴆を射た。
「……来いよ、お前が。こんなんじゃあ、足りねぇ」
 挑むように、乞うように、リクオが艶然と笑う。
「欲しいのは鴆だと、言ったろう?」
「……嬉しいこと、言いやがって、」
 応じて口元を歪めれば、艶めいた表情が嬉しげに綻ぶ。
「覚悟しやがれ」
「……鴆、」
 呼ぶ声を合図に、鴆はリクオの身体を組み敷く。自身の熱で相手を貫き、悦がらせて、二つの身体の境界は曖昧になっていく。浅く速い呼吸と、堪えきれない嬌声が混じって、昂ぶりに拍車を掛ける。
「リクオ、」
「……あ、……ぁっ」
 ゆっくりと深く穿てば、リクオは眉を寄せ、切なく啼いた。
「……もっとだ、……もっと、鴆……っ」
 求めてねだられ、責めて許され、互いを蕩かす。
 果てなどない眩む心地の中で、鴆は幾度もリクオを抱き締めた。
                                          (了。11.02.12.) 


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