夜を重ねるなかでリクオが見せた、あられもない姿の数々が記憶から立ち現れ、鴆を誘う。ときに艶めかしい笑みを浮かべ、ときに疼きを堪えて顔を歪ませ、ときに乱れきった後の放心を隠さず、リクオは鴆の身体に縋った。
 始まりに、きっと彼は小さく笑みを浮かべるだろう。
 そして、まっすぐなまなざしの奥に秘めた情欲を閃かせて、鴆を覗き込んでくる。
「なあ、鴆……」
 鮮やかに笑んで、リクオが甘い声で呼ぶ。褥の上で膝をつき、両の腕で自らを抱いた姿に鴆の鼓動も跳ねる。
「身体が熱くて……治まらねえ」
 ゆっくりと、思わせぶりに瞬いた眸は、熱を湛えて鴆へと訴えた。思わず見入れば、身の内が妖しくかき乱される。
「お前なら……わかるだろう?」
 身を乗り出したリクオの唇から、共犯者の親密さで囁きが零された。
「……欲しくて、」
 薄く開いた唇が、誘うように喘ぐ。
 知っている。その唇に口付ければ、どれだけ熱くて、どれだけ甘いか。
 どれだけ激しく、その身を己が欲するか。
 どれだけ切なく、その身が己を求めるか。
「……欲しくて、堪らねえんだ、」
 その右手が、自らを確かめるよう肩から胸、腰へと滑り、着物の内へと潜っていく。息を呑む鴆の目の前で、自身に触れたのだろう手がためらいがちに動かされる。
「……っ、……んっ……」
 戸惑いを残しながらも自らを慰めて、リクオは蕩けるような笑みを浮かべた。
「……リクオ……、……」
 布地越しにも露わな手の動きにつれ、表情に悦が満ちる。まなざしには言葉にならない情欲が滲んで、鴆を挑発した。
 戦慄きを呑み込みきれない身体は快感に震え、否応なく着物の下の従順な花蕾を想像させる。
「……ふっ……あ、あぁっ……」
 最初はゆっくりだった手の動きが、刺激を求めるよう、どんどん忙しなくなっていく。もう、凝った熱は輪郭をもたげ、リクオの身体を疼かせているのだろう。
 涙を零し、解放を欲しがる自身を、その手はどうやって慰めているのか。白い指が溢れた蜜に濡れながら屹立を撫で上げれば、熱はさらに膨れ上がってリクオを苛むはずだ。
 肩を抱いたままのもう一方の手が、縋るようにきつく指を立て、着物に皺を寄せる。その腕の下では、可憐な果実のように尖った胸の粒が、淡く色付いているのだろう。
「……鴆……っ、……」
 呟きのなか名を呼んで、視線が落とされる。
 おそらく、鴆の愛撫を真似ているのだろうリクオの行為は、けれどどこか拙い雰囲気で、それゆえかえって扇情的だ。
 鴆がその指で、唇で、そして身体で、幾夜にわたって快感を教え込んだ、まだ若い肢体。
 あたかも蕾が花開いていくように、リクオの身体も情人の愛撫を施され、匂やかな変化を遂げた。下腹の熱も例外ではあり得ず、戯れに嬲っただけで、為す術なくリクオは息も絶え絶えとなる。
 愛されることを覚えた今、何も知らない、まっさらだった身体にはもう戻れない。
「……ぁ、はぁ……っん、ぁあっ……」
 荒くなっていく呼吸の合間、堪えるのも辛いのか、小さく首が振られる。恥じらうように眸が伏せられ、頼りなく睫毛が揺れた。
 羞恥か、それとも昂奮か、上気した目元は色めかしく、見る者をますます煽る。
 リクオが自らの手で昂ぶっていく様は、幾夜をともにしていても格別の淫蕩さで、触れずとも血が荒ぶる。
「……鴆っ……っ」
 自身で呼んだ快感に翻弄されるよう、リクオが顎をそらした。晒された白い首筋が上下して、喘ぎを呑み込んだと知れる。
 身の内をめぐる疼きを隠しきれずに、その背が小さく跳ねた。
 小刻みに肩を揺らす姿は、今にもくずおれそうだ。それでも自らを追い上げる手は休められることなく、しとどに滴っているだろう蜜が濡れた音を響かせた。
「……は、あぁっ、……、ん、っ……」
 堪えられず瞼を落とした顔が、淫らに歪む。
 常なら強気の笑みを浮かべる双眸が、閉じられれば何処か儚げな風情となって、ただ、その身へ手を伸ばせと誘う。小さく開けられたままの唇が、切なげに何かを伝えようとする。
「……ぁあっ……、お前じゃ、なきゃ……、鴆、」
 喘ぎとも溜め息ともつかない声で、リクオが訴える。
 身体を震わせ、ままならない劣情を持て余す様は、この上なく艶めかしい。着物の下の蕩けきった熱を留めおけず、細い腰が大きく戦慄いた。
「……んっ……っ、ぁあ、っん……」
 頬を桜色に紅潮させ、必死で吐息を逃がしているのは、絶頂が近い証。乱れるまま悦を追い、リクオはなおも夢中で自身を責める。
 達しきれない切なさに引き留められて、譫言のように呼ぶ名は一つだけ。
「鴆、……あぁん、……鴆……っ、」


次頁
文庫目次