あぁ? 今オレの裾を引いたヤツぁ……淡島か。ちょっと座って呑んでけ? それはいいけどよ。おお、悪ィな、じゃあもらうぜ。
 は? 呑んだんだからお前の番ってどういうことだ。話を聞かせろ? おめえらみんな出来上がってんのか。何の話だって?
 何だよイロっぽい話ってガキじゃあるめぇし。酒の席には付きものだって? みんな喋った? しようがねぇ奴らだな。
 おっと悪ぃ、もう一杯もらうぜ。いや、オレはそういうのはいいって。なんだよその手は、放せって。呑んだ分だけきっちり喋ってけ? おめえ、酒癖悪ぃんじゃねぇのか。そんなん、人にべらべら喋ることかよ。
 ったく、んなわけねぇだろう。勿体なくてこんなとこじゃあ喋れねぇんだよ。減るもんじゃない? いいや、んなこたぁねぇ、こうやって喋ってるだけだって勿体ないような極上だぜ。
 はぁ? 了見の狭い男って、……おめえら、本当に好き勝手言ってくれるな。とにかく、オレぁそういうつまんねぇ真似はしねぇんだよ。
 あぁ? 本当に好いてるなら自慢の一つや二つしたくないはずがない? おうよ、そりゃあ、しようと思えば自慢なんて売るほどできらぁ。おめえらみんな裸足で逃げ出すような話、朝までしてやるよ。
 いいや、こんなことで吹かしたりするかって。ガキじゃねぇんだって言ってるだろうが。なんだ淡島、笑い過ぎじゃねぇのか? 別におめえがどう思おうと……、勝負? だから喋る気はねぇって……、ったくホントにおめえ……。
 ああもうわかった。そうだな、聞かれたことには答えるってことでどうだ。生憎、自分の色恋べらべら喋る趣味はねぇが、そこまで言うならつきあってやる。人の情事の話なんざぁ、あてられるのが関の山だってのに、物好きもいたもんだ。
 ん、まずぁどんなヤツかって? 見た目を教えろ? 好きなとこ? ……おめえら一度に喋んな。
 一言で言えば美人だぜ。綺麗な顔して、そこにいるだけで見とれるような極上だ。けど、そんな造作よりあいつがイイのは、目なんだよ。切れ長の吸い込まれそうな目で、瞬いただけで色っぽいことこの上ねぇんだが、あの目で真っ直ぐ見られると、それだけで胸ン中掴まれたみたいな心持ちになる。あいつの心映えとか覚悟とかすべて映して、だからあんな綺麗に澄んだ目してんだろうと、今でも見るたび見惚れちまわぁ。
 あ? 覚悟だなんだって物騒だ? もうちっとイロっぽい自慢してみろ? うるせえなあ、だからそんな美人で、そんな綺麗な目したヤツが、二人の時だけ目元綻ばせるのが堪んねぇんじゃねぇか。おうよ、目が合うと、少しだけ目細めて笑う、そうするとホントに、そこだけ花が咲いたみたいで。
 ん、ガキじゃないんだからさっさとその先に行け? おめえらなあ……。だからこう、手伸ばして身体引き寄せるだろ。間近で覗き込むと、オレを見上げてゆっくり瞬いて、それだけだってそそられるのに、ちょっと口の端上げて笑って、何か言いたげに唇開けて……塞いじまうけどな、すぐに。オレのこと欲しがってくれてるって、可愛いだろうが。
 舌絡めてやると、オレの背中にまわされた手に力ぁ入って、それも嬉しいもんだぜ。息なんか継げねぇくらいきつく口吸って、互いの舌絡めて、遠慮なんかしねぇから、いつも二人して息弾ませる羽目んなって。口付けの最中に感じれば、あいつはそういうの隠さねぇし、もっとイイ思いさせてやりたいだろ? 白い膚上気させて、頬うっすら染めて、唇濡れたままで見つめられたら、なんだってしてやりたいじゃねぇか。
 抱きしめれば、同じ強さで抱き返してきて、そのまんまの格好で耳朶舐めてやると、ふるりと身体ぁ震わせて、やっぱりお返しみてぇに名前を囁かれる。いつもはちっと低めの声だが、そういう時はそれが少ぅしばかり高くなって。耳元で掠れた声で名前呼ばれりゃあ、こっちも震えが走るってもんよ。そうだな、声もいいぜ。普段の落ち着いた声もいいし、オレにだけ聞かせる声も……ちっと上擦った声も堪んねぇ。
 ん? ああ、最初は声殺そうとしてたけどな。でもそれはわかったから、我慢すんなっつって聞かせたさ。今だって堪えようとする時もあるけど、そんな真似させねぇ。オレはあいつの声が聞きてぇし、イイなら素直に感じて欲しい。そんな素振り見せたら、堪えられなくなるまで感じさせるだけだからって言ってんぜ。
 はぁ、相性? 身体の? すごいこと聞くな。知らねぇよそんなん。相性なんか関係なく、オレにはあいつしかいねぇし。ああ? 満足させてるかっておめえ、……それこそ知るか。違ぇだろ、自信がないとかそういう話じゃねぇだろ!?
 ……おう、そりゃあ、やってれば、……するだろうよ。……どこって何だよ、どこだってだろそんなん。はあ? 感じやすいとかあるんじゃねぇのか。最中に撫ぜてやれば身体ぁ跳ねるし、どこ舐めてやったってイイ声聞かせてくれて。あいつが喘ぐ声だけで、こっちは限界試されてるようなもんなんだよ。本人は無意識なんだろうが、甘くて、切なげで、あんなねだるように呼ばれたら、もう、な。
 身体中、オレの知らねぇとこはねぇよ。本人よりか、オレの方が知ってるのは確かだ。どこ弄られんのがイイのか、どこ摘んでやればイキそうになるのか。……そりゃあ、うんと感じさせて、一緒の方がいいだろうが?
 昂ぶってくるとあいつの目元ぁ潤んだみてえになって、ちょっと触っただけで息呑むっつーか、溜息みてえな声出すのが、また最高に色っぽくって。今すぐ滅茶苦茶に揺さぶって、声が嗄れるまで喘がせてやりてぇって、気持ちが急いて仕方ねぇ。
 どこまでが自分でどこからが相手かもわかんねぇくらい蕩けて、熱くて。正面で抱きあってりゃあ、あいつの爪痕がオレの背中に残って。まあ、それ以前に、あいつの身体中、オレが付けた痕が残ってんだけどよ。
 そう、それでぎりぎりまであいつを感じて、……よがらせて、……あと少しのところで、縋るように抱きつかれてみろ、……もう何にもいらねぇし、……正気なんかとうにとんじまってんだがな、……身体中が、魂が蕩けるとしか言いようがねぇんだよ。
 この腕の中から離したくねぇって、正直、朝が来るたび思うがな、……あいつを留めることはできねぇし、留めるつもりも、ねぇし。
 ああ? なんだよおめえ、今、人の話聞いてなかったろ? って、誰呼んでんだよ。……リクオ? 何の話してたかって……、いや、……おい、淡島……! 

                                (了。10.04.29.)

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