おぉ、リクオこんなとこにいたのかよ。ちょうどいいや、今、一本もらってきたとこだ。これこれ、まだこんないい酒が残ってたなんて、運がいいだろ? これもひとえに、この淡島の日頃の行いの賜物だよなあ。っと、隣座るぜ?
 にしても、なんでぇ、せっかくの宴で一人で呑んでるなんて辛気くせぇなぁ。大将なんだからもっとぱーっといけよ、ぱーっと。
 あぁ? 確かにおめえの勝手っちゃ勝手だけどよ。そんなの気にするような奴らじゃねぇ? まぁ、そう言われりゃあ、その通りか。
 つぅか、ついさっき鴆と一緒じゃなかったか? 別に……ってお前、人の目の前で連れ立って席立って、その言いぐさはねぇだろーが。オレがあいつと喋ってたんだぞ。いいとこだったのに、鴆のヤツ、最後のとこで逃げやがって……。
 え、何話してたかって? そいつぁ言えねぇなぁ。あぁ、リクオが自分の話を披露してくれんなら、聞かせてもいいぜ?
   そもそも何の話だって? それも聞いてねぇのかよ。そんなん、イロっぽい話に決まってんだろうが。色恋だよ。鴆は散々惚気てくれたぜ? 好いた惚れた、何なら閨の話でもいいけど、リクオはガキだから、適当なとこで勘弁してやるよ。
 おっと悪ィ悪ィ、ガキじゃねぇってか、はは。イタクもガキって言うとそうやって怒んだよなあ。昼になると可愛らしくなっちまうのも同じだし、おめえたち、ヘンなとこで気が合ってんじゃねぇか?
 んだよ、悪かったって。つか、リクオおめえさっきから何気に機嫌悪いよな? なーに臍曲げてやがんだよ、何かあったんならオレが聞いてやるぜ?
 ん、それよりさっきの話に戻れ? 何の話してたんだっけか、……ああ、色事の話な。だーから、おめえが自分の話すんなら教えてやるって。
 何だよ、鴆の話がそんなに聞きたいのか? 違う? ムキになって隠されたから何かと思っただけ? ああ、おめえら義兄弟なんだっけ、水くさいとか思ってんのか?
 でもなあ、おめえたちの関係がどんなもんかは知らねぇけど、近しいからこそ聞かせたくねぇことだってあるだろうよ。ヤツはおめえのこと、ちびっこいときから知ってるっていうじゃねえか。……え、誰から聞いたのかって、鴆本人から聞いたぜ?
 ともかく、だから閨の惚気なんて、聞かせづらいんだろうよ。そんな拗ねるなって……、っとぉ、わかったわかった、睨むな。拗ねてんじゃなくて気になっただけ、な。ったく、酔ってないって言い張る酔っぱらいかよ、どこの天邪鬼だおめえは。めちゃめちゃ拗ねて……つーか、……怒ってるよなリクオ?
 わわっ、って殴るかここで!? ふざけんな、どこ行くんだよ!?
 ……はぁーっ、なんだってんだ、あいつ。なんかいつもと調子違うように見えるのは……気のせいじゃないよなあ。
 ……どうしたリクオ、何だよいきなり行っちまって。
 酒をとりに行ってた? って、おいおい、こんなイイ酒どっから持ってきたんだよ!? さっきのオレの戦利品も霞んじまうじゃねぇか。え、毛倡妓に出してもらった? これで今の話を聞かせろ?
 はは、まぁいっか。水くさいと思う気持ちはわかんなくもねぇしな。こうした席には付きモンだし、そりゃあ、リクオばっか聞いてないのはつまんねぇよなぁ。
 じゃあ、覚悟して聞けよ? 鴆のはまた飛びっきり砂吐きそうな話だぜ。ったく、こっちまでヘンな気持ちになっちまいそうな……って、いや、こっちの話。
 まずは、そうだな。すっげぇ美人だって言いやがったぜ鴆のヤツ。とびきり綺麗で、イロっぽくて……、いるだけで見惚れる極上だとさ。立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は百合の花って、どんな絶世の美女なんだか、言いながら頬緩んでりゃあ世話ぁねぇよ。
 重ねて言うには、特に目がイイんだと。瞬くだけで押し倒したくなるし、見つめられたらそれだけでイけるって。しかも目が綺麗なのは、心を映して綺麗なんだって言いやがる。凛としてひたむきで潔い、その心意気が何より愛しいとさ。いつからの付き合いか知らねぇけど、今でも見惚れるって、ベタ惚れだよ、あいつ。
 しかも、そんな姿よし心よしの別嬪が、自分にだけ花みたいに綻んでみせるって……、言ってくれるよなあ? だいたい、オレたち皆が尻尾巻いて逃げ出すくらい惚気てやるって啖呵切ったんだぜ、鴆のヤツ。話始めも勿体つけやがって、喋るだけで減るからおめえらには言わねぇとか言いやがって。どんだけ大切に囲ってるんだって話だろ。結局、自慢したくて仕様がないんじゃねぇか。
 なんだよリクオ、人に喋らせといて、自分だけとっとと盃干すたぁイイ根性だな。人の惚気なんざ呑まなきゃやってられないってんならその通りだが、そんな急いで呑むには勿体ねぇ酒だろうが。ほら、オレにも注げって。
 んー、その先続けろ? なんだっけな。……ああ、間近に身を置くだけで身体が火照ってどうしようもない、それは相手も同じはずって言ってたな。
 ……どうした大丈夫か? そんな咽せて、だから急いで呑むなって言ったじゃねぇか。治まったか? じゃあ、話続けっぞ?
 こう、肩を抱くだろ? 見つめると、相手がそれこそ花のように笑うんだと。鴆のヤツのことが欲しいと頬染めて口付けをねだる、朱い唇が堪らねぇって。誘う表情が触れなば落ちんって風情で、もうそこで理性なんか吹っ飛ぶって話だ。
 口付ければ、もっと欲しいって口吸われて、きつく抱きしめられるんだと。息もしないで何度もお互いに舌ァ絡めて、熱い息を感じ合って。濡れた音たてて貪れば甘くて甘くて、堪えらんなくなった相手が喘ぐまで許さねぇんだって。
 その頃には相手の白い膚もうっすら染まるし目元も濡れてるしで、二人そろって腰蕩けさせて。熱くなってんのを隠さねぇ相手だから、どんなにめちゃめちゃに抱いてやろうか昂ぶって仕方ねぇんだと。
 耳が感じやすくて、舐ってやれば身体震わせて鴆にすがって。そうして急かすようにヤツの名前を囁くとき、いつも低めの声が上擦ったみてえに高くなるってんだが、鴆のヤツ、この、オレにだけ聞かせる声が堪んねぇってぬけぬけと言いやがる。
 しかも閨で抱き合えば、どこ撫ぜてやってもその声であられもなく啼いて、可愛くて仕方ねぇんだと。
 リクオ、だからそんなふうに呑むなっつってるだろーが! 水じゃねぇんだから味わって呑めよ。って、おめえ酔ってんじゃねぇの、顔朱いぜ? 気にすんな? まあ、おめえが酒強いのは知ってっけど。
 おぅ、それで何だっけか。そうそう、鴆のヤツ、見目よし心映えよしって情人褒めるのは勝手だけどよ、言うに事欠いてカラダの相性もいいって自慢しやがった。すごいこと言うよなぁ、聞いてないっつーの。
 曰く、すっげえ感じやすくって、触れただけで身体跳ねさせて、そんな様で鴆を欲しがってせがむんだと。目ェ潤ませて甘えた声で喘がれると、あまりに淫らでもう全然歯止めなんかきかねぇって。
 知り尽くした身体中まさぐって、うんと啼かせて。感じた分だけもっと欲しがるから、もっともっとイかせたくて、本人も知らねぇようなとこ弄ってやると、喉が嗄れるまで鴆のこと呼ぶんだと。
 相手の白い膚に口吸いの痕をつければ、その度に恥じらうような震えを返して、ついつい身体中に朱い跡を散らしちまうって。何度抱いても、ふと竦む様がぞくぞくするくらいそそって、気が逸るんだとさ。
 下肢を絡めて抱き合えば、快感を堪える表情が最高に色っぽくって。鴆の熱を感じてんのをめちゃくちゃに揺さぶって、己と相手の区別がつかなくなっちまうくらい、ぐしゃぐしゃに蕩かして、それでも欲しくて足りなくて、果てがねぇんだって。
 熱くて熱くて堪んねぇから、もっと深く、魂ごと蕩けるまで腰振って、朝が来るまで何度泣かせたかわかんねぇくらいイかせて、……もうそいつ以外何もいらねえって、鴆は言ってたぜ。
 腕の中で縋ってくる様が切なくて、別れ際はこのまま掠ってやりたいっていつも思うってよ。
 ……ったく、何か喋ってるうちに馬鹿馬鹿しくなってきたな。
 鴆のヤツ、最初は渋ってたくせに力いっぱい惚気やがって。ふかしてんじゃねぇだろうな……って、あいつの緩みきった幸せそうな顔見りゃあ、そんなんじゃねぇのは明らかだしなぁ。
 それはともかく、リクオはもしかして心当たりあったりしねぇか、鴆のイイ人の。あれだけ惚気ときながら、全然どこのヤツかさえ匂わせねぇんだよ。あんなイロっぽい話聞かせといて、そりゃないよなあ。
 ……そっか、知らねぇか。
 おい、本当に顔朱いぞ、大丈夫かよリクオ?

                                (了。10.08.08.)

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