着物に手を掛ければ、リクオも同じように鴆の帯へと指を伸ばす。先を争うように脱がせ合い、組み敷く格好で恋人を見下ろせば、その眸は熱っぽく濡れていた。
「鴆……」
リクオの腕が、鴆を抱き寄せる。誘われるままに口付けて、そのまま首筋へと唇を滑らせた。
白い膚を味わい、所有印に等しい朱を刻む。舌を這わせると、押し殺した吐息が耳を打った。リクオの両腕は鴆の頭にまわされたままで、時折、ねだるように力が込められる。
「……んっ……」
胸の粒を舌で突くと、色めいた声が零れ落ちた。既に尖っていた其処に軽く歯を立ててやれば、思惑通り身体が跳ねる。
「……鴆っ……や……っ……」
わざと濡れた音を立て、舌と唇とで強く舐る。刺激を与えられればリクオの胸は大きく上下して、声にならない声が喉を震わせた。
髪に潜ったリクオの指が、縋るように鴆の頭をかき抱く。自ら膚を押し当てて、リクオはその先を欲しがった。
何も知らない未熟な身体に、閨の手ほどきを施したのは鴆だ。愛し方と愛され方を教え、抱き合う悦びを憶えさせた。恋人の身体の隅々を、何処を可愛がればどんな声をあげるかを、きっと本人より知っている。
「……鴆……ぁん、っ……鴆……っ……」
鴆の下で、リクオの身体が大きく撓る。あられもなく悦の滲んだ声に、腹の底の熱が脈を打った。
「……リクオ?」
「……や、……ぁあっ……」
胸の果実を指で爪弾けば、上擦った声が転がり落ちた。顔を上げた鴆を、何処か途方に暮れた表情でリクオが見上げる。
涙を滲ませた眸は欲情に濡れて、焦点も定まらない。
「……鴆……、……早、く……っ……」
「……どうした? そんな……」
「……鴆……っ……」
固く目を瞑って、リクオは余裕のない声を重ねた。滑り落ちた手が敷布へと指を立て、きつく皺を寄せる。
常とは違う様子に、なおも胸の果実を捏ねてやれば、大きく肩が戦慄いた。薄く開いたままの唇が、息を呑む。
何かを必死に堪えるような顔を見下ろし、鴆は不意に淡島の言葉を思い出した。
『好きにしていいぜ? オレらからの誕生祝いだからな』
そう、確かに淡島は言っていた。ただの言葉の綾だと、その時は気にも留めなかった。
『今日は特別だ。楽しめよ?』
「リクオ、」
恋人に覆い被さっていた身体を起こし、リクオの身体も抱き起こす。股の上に座らせて、間近から相手の顔を見上げた。
「何呑まされた?」
リクオの頬が朱く染まって、とうに自覚はあったのだと教える。
「……ただの、酒だよ。別に呑まされた訳じゃねぇし」
「……へえ?」
探るように見つめれば、リクオも負けじと視線を返す。とはいえ、上気した顔で睨まれたところで、ただ欲情を煽られるだけだ。
遠野の連中のすることなら危険はないだろうが、おそらくは媚薬といわれる類のものをリクオは呑んだのだろう。世間に出回るそれのほとんどは眉唾物とはいえ、身体や気持ちを昂ぶらせ、感覚を鋭敏にする薬物がないわけではない。
淡島とのやりとりから察すれば、リクオは遠野全員を相手にイカサマ負けしたらしいが、一体どういう約束でこんなことになったのか、心配でないと言えば嘘になる。
「今度は何だ? また百鬼花札か?」
「鴆には関係……ぁんっ……」
脇腹を撫で上げ、胸の粒をきつく摘んでやる。仰け反ったリクオが声を呑んで、喉を震わせた。
「ねぇ訳ねェだろうが。ったく」
顔だけをあらぬ方に向けたリクオに呆れたように呟き、手を下腹へと滑らせる。欲情を露わにした其処は誘うように蜜を滴らせ、触れた鴆の指を濡らした。
「……ぃやっ……」
指を絡ませただけで、腕の中の身体が大袈裟に跳ねる。
戸惑いを孕んだ声は常より艶を聞かせて、身の内の何かを刺激した。
頼んでもいないお膳立ては業腹だが、普段と違う趣向も悪くはない。リクオも承知なら、楽しませてもらうまでだった。
(3に続く。12.08.10.)
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