「リクオ、」
 勃ち上がっているリクオ自身を、根本から撫で上げる。
「もう我慢できねェのか?」
 聞かずともわかりきったことを囁けば、朱く染まった顔が唇を噛む。羞恥を堪えるリクオの表情に唆されるよう、鴆はゆるゆると掌中の熱を弄んだ。
「……っん……、ぁあ………っ……」
 意地の悪い戯れに、リクオからは切なげな溜め息が返る。瞬き一つも鴆の目を逃れることはできない体勢で、追い上げられたリクオの身体は悩ましげに戦慄いた。
「イきたいんだろ、なあ?」
「……鴆……っ、や、……っ……」
 こんな刺激で、辿り着けるはずはない。それでも、譫言のように鴆の名を呼んだリクオは、果てを欲しがって腰を揺らめかせた。
「……も……っ……はや、く……」
 鴆の肩を掴んだ手が、震えている。身の内の疼きを懸命に堪えるのか、力を込めた指先は爪を立て、鴆の膚に痛みを刻んだ。
 まるで無体を強いる錯覚すら覚え、鴆は喉を上下させる。
 閨で見せる艶めかしい姿は、鴆だけが知るリクオだ。三代目として百鬼を背負う顔からは想像がつかない痴態を、数え切れない夜にわたって共にした。
 だからもう、恋人のどんな顔も知ったつもりになっていたのに、今夜のリクオはかつてなく婀娜めいて、恥じらう余裕すらとうにない。
 過敏になった身体を持て余し、懸命に訴える恋人に、愛しさと苛立ちとが胸を灼く。
 楽にしてやっても構いはしなかった。
 けれど腕の中でリクオが乱れるほど、与り知らぬところで為された今日の趣向に意趣返しをしたくなる。何も知らずに賭に負けたのだろうリクオはとんだ側杖だが、そんな不用意さへの苛立ちも胸にはあった。
「リクオ、」
 低く呼んで、その腰を両手で掴む。
 昂ぶらされたまま放り出された熱は、苦しいだけだろう。泣きそうな表情でリクオが鴆を見る。
 どうしようもなく艶っぽいその様に、凶暴な衝動が鴆を揺さぶった。
「……せっかくだ。一緒に楽しもうぜ?」
 嘯いて、口の端を上げてみせれば、リクオは腕の中で小さく喘いだ。
 腰骨に手を掛けたまま、もう片方の手を背中へと滑らせる。背骨を、双丘の狭間へ沈み込むところまで中指一本で辿り、わざとゆっくりなぞってやる。感じやすくなった身体を堪えきれず、リクオは鴆へと縋る力を強くした。
 脱ぎ落とした着物の袂から出した香油を指に纏わせ、花蕾の中へと押し入る。跳ねた身体を感じながら、リクオの内を強引に拡げた。熱く湿った花筒はすぐに柔らかく絡みつき、誘うように鴆の指を締め付ける。
「……はっ……ん……ぁんっ……」
 性急にまさぐられながら、リクオの内はなお貪欲に鴆を欲しがった。綺麗に背中を撓らせて、リクオが淫らに息を吐く。身体は既に蕩け出して、くずおれる寸前で揺れている。
「……鴆……、ぜ……んっ……」
 熱に浮かされたように、リクオは夢中で鴆を呼んだ。嬌声を堪えるのか、息を呑む様は初心にすら見えて、鼓動が跳ねる。腰を擦り付けるようにしてねだられれば、それ以上焦らす余裕は鴆にもない。
「……いいぜ。……来いよ、リクオ?」
 花芯から指を抜き取って、掠れた声で耳打ちした。欲情に潤んだ眸が鴆を見つめ、問いたげに瞬く。
「できるだろ?」
 竦むように一瞬視線を泳がせ、けれどリクオは鴆自身へと手を伸ばすと、躊躇うことなく花蕾へと宛がった。
「……ぁんっ……」
 鼻にかかった細い声が、甘く零れ落ちる。仰け反って白い喉を晒しながら、リクオは自ら鴆を咥え込んだ。
 ほぐされた秘奥は、悦をもって熱塊を受け入れる。膚が擦れる音が淫靡に響いて、生々しい欲情を煽り立てた。
 自身を貫く熱を余さず追うよう、鴆の腕の中でリクオの腰が振れる。無意識の媚態を惜しげもなく見せつけながら、訴える強さで爪を立てた。
「……っ……ぜん……っ……」
「まだ、足りねェだろ……?」
 切なげに歪んだ顔が、鴆の嗜虐心を刺激する。
 呑み込み切れずに竦んだ恋人を、戯れに突き上げた。喉の奥を震わせ、リクオが促されるまま腰を揺らす。
 繋がった場所は淫らにひくつき、鴆を乞うように誘った。そのまま持って行かれそうになるのをやり過ごし、鴆はなおもリクオを揺すり上げる。
「……鴆……っん、……ぁ……やぁっ……」
 拒むように首を振りながらもリクオは腰を沈め、最奥まで鴆を呑み込んだ。


                          (に続く。12.08.11.) 

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