「……く、っん……」
「……リクオ、」
 既に鴆の中心は兆している。けれど今夜は先刻の言葉通り、リクオのすべてを晒させるまで、許すつもりはない。閨の内でのみ、百鬼の主は己だけのものとなる。
 唾液で指先を濡らし、勃ち上がった粒を摘む。柔くきつく愛撫すれば、朱く熟れるとともに、徐々に息が弾み出す。切なげにしかめられた顔に誘われるよう、鴆はリクオに覆い被さる位置へと膝をついた。
 薄く開いた唇に、噛みつくように口付ける。吐息が混じる瞬間、何かが熱く、身体の奥で爆ぜる。舌先を触れ合わせての交情は興奮と愛しさをないまぜに生んで、ただ、その身を乞う気持ちばかりが胸を覆う。
 口付けながらも嬲る手は休めず、リクオを乱していく。先刻からの愛撫で鋭敏になった身体はわずかな刺激にも跳ねて、鴆は笑みを深くした。胸から脇腹、下腹にかけての傷跡を優しくなぞり、微かに跡をとどめる引き攣れを存分に味わう。
「何、してやがる……、鴆。……初めて見たわけでも、……くっ、ねぇ、だろうが」
「言ったろう? おめえの傷は、……オレがもらう、と」
 伸ばした手で、リクオ自身を握り込む。唐突にもたらされた直截な刺激に、リクオがはっきりと息を呑んだ。
「……あっ、……はぁっ、……」
「……この手で晒せと言ったのは、リクオ、おめえだぜ?」
 既に輪郭を持ち始めていたリクオの下腹部に、鴆の指が絡む。上下に扱けば快楽へと直結して、リクオに甘い喘ぎを強いた。
 本当は、その身に傷など負って欲しくはない。けれど百鬼夜行を背負う以上、身をもってしか果たせない責がある。それならせめて、その傷を己のものとしたいと願う。
「……んんっ、ふっ、……あ、あぁっ……、」
 余裕のない吐息を受けて、鴆自身も追い上げられる。膨れ上がった狂暴な熱が、迸る瞬間を待ちかねて身の内で猛る。
 すぐにも己を埋めたい衝動を堪えて、鴆はなおもリクオを苛んだ。溢れさせた蜜に指を濡らし、隠微な水音をたてて責め立てる。先端を指の腹で擦り、弄ぶよう強くしてやれば、あとからあとから蜜が溢れた。
 零れ続ける喘ぎに、滴る蜜に、リクオが思うさま感じていると知れて、灼けつくような欲情を覚える。
「……や、あっ、……ぜん……っ、あ、あ、……っ、」
 嬌声もひときわ高く、情欲を露わに耳を打つ。よすがを求め、リクオの脚が鴆の腰へと絡んだ。
「……もう、……鴆……っ。……はぁっ、ああっ……ん、」
 訴えるよう、かけられた脚に力が込められる。もう喘ぐことしかできないリクオに、鴆もただ我を忘れた。
 誰も知らない、己すら見たことのないリクオを見たい。己を求めて乱れるリクオが欲しい。
 ただひととき、気がふれるほどに感じたまま、己の名前を呼んでほしい。
 リクオの脚を高く抱え上げ、欲望を徴した自身で最奥を貫く。
 きつさに眩暈すら覚えたのは一瞬、リクオの中は熱く蕩けて、快感が身体の芯を沸騰させた。
 喩えようのない熱は四肢を疼かせ、ただ、それを貪ることしか考えられない。
 呼吸を呑んだリクオが息を吐くのを待って、さらに奥へと腰を進める。
「……リクオ、」
「……っ、……ん、」
 低く囁けば、震えた瞼が瞬き、リクオが視線を返す。欲しいままに揺すり上げて、深く、強く、秘奥を犯した。ひときわ激しく突けば、抱えた膝も痙攣して、声にならない溜息が零れる。
「……おめえの全部が、欲しい」
 情けなく掠れたのは、余裕のない証だ。
 苦しげだったリクオの表情も、繰り返される抜き差しのうちに緩んで、やがて艶めかしい喜色が浮かぶ。薄く開いた唇が笑みを形作り、鴆が突き上げれば悩ましい喘ぎを聞かせた。
「……あ、っ……ぜ、んっ、……鴆、……んっ、」
「もっと、……リクオ、」
 深く穿つほどに吐息は忙しなく、リクオが堪えかねたように腰を揺らした。濡れた音をたててねだるその様に、咥え込まれた自身へ熱が凝る。その、甘く掠れて呼ぶ声が、貪欲に揺れる腰が、情欲を宿した瞳が、どうしようもなく愛しい。
 痛みにも似た快感が、背を駆け上がる。夢中で突き上げ、己の熱をリクオの中へと迸らせた。応じるようにリクオも、激しく飛沫いて鴆の前を白濁で汚した。


 盛夏を過ぎたとはいえ、まだ夜は短い。
 飽かず互いを求めれば、すぐに夜明けの気配はやってきた。鴆の傍らで横になっていたリクオが、身を起こす。
「行くか?」
「ああ」
 手早く着物を身につけ、縁側へと出る。暗い庭先に降りたリクオは、鴆を見上げて口元を緩めた。
「なんだ?」
「……」
 笑みを含んだまま首を振られ、素っ気なく背を向けられる。
「……おい、なんだそりゃ」
「別に。……ただ、」
 顔だけで振り返ったリクオが、からかうように目を細めた。
「もう疾っくなものを、と、思っただけさ」
「……は?」
「いや、いい」
 皆まで言わず、リクオは薬鴆堂を後にした。
 取り残された鴆が唐突にその意味を悟るのは、まだ少し先のことだ。
                                         (了。09.09.03)

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