「んっ……」
触れたのは一瞬、舌でなぞれば呆気なく唇は綻び、待っていたかのようにリクオは鴆を迎え入れた。口腔の濡れた感触が下腹を波立たせ、体温をさらに上げる。
舌と舌とを絡ませ、吐息を余さず貪った。溢れた唾液が唇から伝うのも構わず、互いの熱を交わす。
ひどく無防備な睦み合いは、否応なく二人をその先へと急き立てた。
「リクオ……」
熱っぽくその名を呼んで、鴆は自身の下腹をリクオの腰へと押し当てた。着物越しでも欲望は露わで、リクオの身体が震えを返す。
「なあ、……もうこんなになってんのは、おめえのせいだろーが」
殊更、己の熱を見せつけるよう、下肢を密着させる。切なげなため息を心地よく聞いて、伸ばした手でリクオ自身をまさぐった。
「あぁっ……っ、」
唐突な刺激に、リクオが思わず声をあげる。構わず、鴆は頭をもたげ始めたそれへ、着物越しに掌を這わせた。
「んっ、……は、ぁっ、」
「イイ声じゃねーか、リクオ、」
腕の中で戦慄いたリクオが愛しい。
押し当てたままの鴆自身に、痛いほど熱が凝っていた。早くこの熱をリクオの中に注ぎたいと、身体中の血が沸いている。
「……あぁ……っ、鴆、てめぇ、……戸口くらい閉めやがれ……、っ……」
背後を気にして、リクオが毒突く。けれど、甘い疼きが混じるのを必死に堪えた声は、鴆の情欲を煽っただけだ。
「おめえ、いつも人ん家じゃあ、んなこと気にした例しもねぇのに、」
胸の奥が微かな不服を訴えて、衝動のまま、鴆はリクオの前を乱暴にはだけた。
露わにされた膚が粟立ったのは夜気に触れたせいか、それとも。そのまま下帯を取り去り、育ったリクオの欲望へと直に指を絡ませる。
「宴もたけなわ、ふけてんのなんておめえくらいだ。……こんなとこまで、誰も来やしねぇよ」
耳元に唇を寄せて、囁いた。昂ぶりに目元を朱く染めたリクオが、肩越しに睨め付ける。
「……んっ……、また、その話かよ、……」
「そうじゃねぇ。……おめえこそ、余計なこと考えるなって話だ」
他の何かに気を取られる余裕など、許すつもりはない。もちろん、声を堪えることもだ。
無造作にリクオ自身を扱けば、従順に肩が跳ねた。長持へと着いた手はうまく力が入らない様子で、拳を握り締めたまま僅かに震えている。
「……はぁっ、……あ、っ……」
「なあ?」
背に覆い被さるようにして、押し倒した。上半身を長持へと伏せられたリクオが、かろうじて顔だけを起こす。
「んな訳……、ぁ、んっ……」
とめどない喘ぎには劣情が滲んで、鴆の身の内の熱が滾って脈を打つ。
下腹部へと絡めた指は、リクオから溢れた蜜で今やしとどに濡れていた。強く柔く弄んで、湿った音をたてるたび、組み敷いた身体が感に堪えない風情で身じろぐ。
「鴆っ……、も、うっ……」
艶めいた声に呼ばれれば、抜き身の情欲が胸を覆った。
互いへの執着は、この身一つのもの。交情のとき、リクオはただ、鴆の情人となる。
欲しいと求められれば、己のすべてを与えるだけだ。
相手の着物の裾をかき上げ、鴆は跪いた。双丘に手を掛け、押し開く。そうして、尖らせた舌先でリクオの秘所へと触れた。
「……は、ぁっ……、」
濡れた感触に、リクオが腰を大きく揺らす。なおも舐ってやれば、零された吐息は熱を持ち、ねだるように身を震わせた。
「リクオ、」
けれどこれでは、浅い愛撫しか与えられない。鴆はリクオ自身の蜜をまとった指を、最奥へと宛がった。
「……っく、……んっ……」
拒もうとするリクオの内を、あやすように犯していく。熱く濡れた内壁に包まれれば、快楽の記憶が身体を過ぎって、呼吸を苦しくした。何度この手に抱き、何度身体を繋げても、手放してしまえば残るのは焦がれる気持ちばかりだ。
馴染むのを待って、差し入れた指を増やす。ゆっくりと嬲れば、リクオの吐息はさらに甘くせわしくなって、もう立っているのも覚束ない。
「リクオ、」
堪え続けた情欲が、鴆の身の内を灼いている。
「……鴆、」
求める声に立ち上がれば、リクオは少しだけ振り返り、極上の笑みを閃かせた。魅入られるまま、鴆はその膚へと身を重ね、自身の欲望でリクオを穿つ。痛みと紛う刺激が身の奥を痺れさせ、強く脈打って感覚を侵す。
「ぜ、……あ、あぁっ……」
最奥を欲してさらに自身を突き入れれば、抗うようにリクオの背が跳ねた。けれど構わず腰を使ううち、やがて悦楽を隠さない嬌声が仄暗い部屋を埋めていく。
今や何憚ることなく、リクオは感じるままに声をあげていた。他の何者でもない己がリクオを啼かせていると思えば、それだけで達してしまいそうになる。
「………はぁ……っん、っ……」
「リクオ、」
ただリクオを感じたくて、夢中のうちに責めは激しさを増す。繋がった箇所は隠微な音をたてて、劣情を煽った。強く腰を打ち付けるたび、どちらのものとも知れない喘ぎがそれに重なる。
「……ぜ……ん、っ……」
喉を仰け反らせたリクオが、堪えかねたように自ら腰を振る。咥え込ませた自身は熱く蕩けて、遮るものなく互いが互いを犯した。飛びそうな意識のなか、灼き切れる寸前の熱が身体を支配し、絶頂へと駆り立てる。一際激しく貫けば、微かな声を呑み込んでリクオが飛沫き、鴆もまた、リクオの内へと己を放った。
しばらくは、淫らに調わない吐息だけが聞こえていた。
やがて身を起こした鴆が、リクオの首筋へと顔を寄せる。耳朶に口付けながら、愛しい名を囁く。
少し放心したようなリクオが顔を上げ、ややあって婀娜な笑みで目を細めた。瞬いた鴆が顔を綻ばせ、どちらからともなく唇が重ねられる。触れればまた身体は熱を生じ、互いへ手を伸ばさずにはいられない。
夜明けまでは、まだ時があった。
鴆の唇が、今一度、その名を呼ぶ。
(了。09.11.23)
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