下帯を取り去った脚の付け根に、口付けを落とす。差し出した舌で丁寧に身体の輪郭を確かめれば、リクオは満足げに息を吐き出した。その吐息を乱したくて、鴆は唇を滑らせ、形を変え始めた下腹の中心を含んだ。
硬さを増していくそれを咥え込んだまま、舌と唇で丁寧に愛撫する。無意識に身体を引くリクオを抑え、舌を這わせると、先端から滲む潤みが苦く舌を刺し、腰を疼かせた。
「……んっ……、」
深い吐息とともに、乱暴に頭を引き寄せられる。もっと深くとねだる仕草に、鴆は口のものを解放した。先にだけ口付けたまま、抉るように舌を使う。わざと水音をたて、溢れ出した体液と唾液に濡れた指で根本から扱き上げた。
「……んっ、……あぁ、」
吐息に、声にならない声が混じりだし、リクオが腰を揺らめかす。
「……何度聞いても、イイ声だ」
強く啜って囁けば、目の前の身体は衒いなく震えを返した。
「……鴆、……なあ、もうっ……」
甘く掠れて、誘う。長いようで、夜は短い。合わせた膚を汗が伝い、互いの輪郭を曖昧にする。もっと深く、もっと近く交わる術を知った日から、もう後には戻れない。抱きしめても口付けてもまだ足りず、剥き出しの情をつなぐことしかできなくなった。
身体を開かせ、最奥に己を刻めば、二度と消えない跡が己の魂に刻まれる。思うさま喘がせ、喉を嗄らして己の名を呼ばせれば、その名を唇に乗せる許しとなる。すべてをさらけ出し、情と情とが切り結んで血を流す、ただ、その手触りに我を忘れた。
指に纏わせた潤みを、鴆はリクオの秘所へと差し入れる。拒む蕾へ強引に指を割り入れ、熱く締め付けてくるのを宥めるよう、ゆっくりと蠢かした。侵入を果たし、もう指が覚えたその場所を突けば、腕の中の身体はひくりと跳ねる。
「んっ……あっ、……ぜ、んっ……」
裏返った声を呑み込もうとしたリクオが、咥え込んだ鴆の指を更に締め付ける。本数を増やして抜き差しさせ、前と後ろから責め立てれば、堪えられず濡れた声を漏らした。
「……あぁっ……ふっ、んんっ……」
切れ切れの嬌声に鼓動が逸る。指を抜き出し、張り詰めた己を浅く宛がって、昂ぶりに痛みすら感じた。
「……リクオ、」
低くその名を呼んで、身体をつなげる。
呑み込まれた場所は熱く、触れた端から蕩けて、一瞬、息が止まる。身体の中を喩えようのないうねりが過ぎり、全身の感覚を持っていかれる。
「……あぁ、……っつ、……」
視線の先で、目を閉じたリクオが切なげに眉を寄せた。微かに開いた唇に、どうしようもない乾きが迫り上がった。
欲するまま突き上げれば、抗するようにきつく締め付けられる。最奥へと、零れる喘ぎを意に介さず腰を打ち付け、一際高い嬌声をあげさせた。
鴆の腰の動きにつれ、背に回されたリクオの指の爪が膚へと食い込む。呑み込まれた箇所から濡れた音が響き、抜き差しと共に生々しい音で二人を煽った。身の内の炎が燃え上がり、身体中を駆け巡る。
覆い被さった身体の下で、息を弾ませたリクオが薄く目を開けた。切なげにしかめられた額の前髪をかき上げてやると、艶やかな笑みを浮かべる。
「……っ、リクオ、……」
堪らず、身体を屈めて唇を重ねた。
「……ん、んっ……、鴆っ……」
揺すり上げ、喘ぎの内に名前を呼ばせて、もっと深く求める。自身のものとは思えない熱が身の内で膨れ上がり、出口を求めて身体中を揺さぶる。欲しくて欲しくて箍が外れかけているのは、己の魂なのか身体なのか。組み敷いて見下ろす、蕩けた表情。耳を打つ、甘い息遣い。鼻先を掠める、桜の香。鮮やかに膚に咲いた、朱い跡。互いに終わりが近いことを意識して、鴆は容赦なくリクオを穿った。
「あぁっ、あ……っ」
濡れた声を零して、リクオが鴆の前へと飛沫き、その声を聞きながら鴆もまた、リクオの中へと己を放った。
天頂にあった月は、何時しか西へと傾いていた。
起き上がったリクオが着物をまとい、縁側へと立つ。散る花はますます激しく、何かに急かされるかのように舞った。
「なんだ? まだ見足りねェのか?」
声をかければ、顔だけで振り返って微かに笑んだ。
「一期一会と言うだろう? 今夜の桜は今夜だけのものだ」
「今夜のあんたが、今夜だけのもののようにか?」
肩を揺らして、リクオは笑みを深くした。
「……お前がいちばんよく知っているだろう?」
着物を引っ掛け、鴆も縁側へと出た。リクオの隣に胡座をかき、桜を見上げる。夜風が頬を撫で、一際強く花の香を運んだ。
「あんたがまた、教えてくれるんならな」
リクオの足が、鴆の膝を乱暴に蹴る。笑って、鴆はその足を小突き返した。
(了。09.05.23.)
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