「……どっちでも構わねぇよ」
優しく抱いてくる鴆に、リクオも腕を廻した。温かなその身体を、きつく抱きしめる。
ただ、鴆が泣きそうに見えたからと言ったら、本人は笑うだろうか。
悼む眸をした鴆を離すことはできなくて、どうしても、その膚に触れたかった。
「リクオ、」
鴆の両手が、頬を包む。覗き込んできた顔は心配そうで、胸の何処かが軋む。
鴆が感じた痛みに耐えられなかったのは自分だ。だからこれは、自分の我侭に過ぎない。
鴆の熱を、どうしても今欲しかった。
リクオから、鴆へと口付けた。どちらの唇も冷たくなっている。薄く開いて誘えば、躊躇わず、熱い鴆の舌が入ってきた。
舌と舌とが擦れ合う快感を追ううち、今いる場所すら頭から飛ぶ。
口付けたまま、互いの背に、腰に、掌を滑らせた。まさぐる手はすぐに色めかしさを露わにし、よく知った相手の膚を挑発する。着物越しの緩い愛撫に焦れながらも、渇えは欲情を煽りこそすれ、妨げにはならない。
「リクオ、」
愛しげに呼ばれて、鼓動が跳ねた。
最初はゆっくりと、やがて少しずつ余裕をなくて、何度も口付け、舌を吸う。一方が離れてはもう一方が追って、余すところなく互いを貪った。舌と舌とを繋げれば、それは楔を受け入れるのにも似て、下腹もがどうしようもなく痺れていく。濡れた唇を最後に軽く舐めてやり、リクオは顔を離した。
そのまま冷たい土へと跪いて、鴆を見上げる。
「……リクオ?」
戸惑った声へと向けた笑みは、鴆に見えただろうか。
目の前の下腹へと手を伸ばし、触れる。反射的に鴆は身体を退いたものの、既に兆した熱は露わだった。着物の裾を分け、下帯も取り去って鴆のものへと指を添える。
舌を這わせれば、鴆の欲望はリクオの手の中で息づいた。口中に含んで、少しずつ深く呑み込む。頭上に鴆の荒い息を聞いて、咥える唇をきつくすれば、応えるように喘ぎが零れた。
鴆は、そして自分も、情欲に忠実だ。舌に鴆の蜜が滲むのを感じて、リクオは小さく笑んだ。それは妖の性かもしれないし、二人の性格ゆえかもしれない。けれどこのひとときだけ、互いが隠すものを忘れてしまえることと、多分無関係ではない。
最初に繋がったときから、理性は呆気なく手放せるものだと知った。唯一無二の相手と熱を交わして、正気でなどいられるはずもなかった。
相手を抱き、自分を差し出し、情も欲も晒し合う。果てなど知らずに身体を重ねて、ただ、相手の名を呼んだ。熱を奪い、奪われ、悦楽を分け合えば、正気などすぐに飛んで、跡形もなく蕩けた心と身体だけが残される。そうして交情を覚えた身は、いつだって鴆に触れれば欲情した。
鴆の手が、リクオの髪を撫ぜる。もどかしさを堪えるような手つきに愛しさを感じて、リクオは舌を使った。勃ち上がった熱が口中を埋めて、少し苦しい。それでも頬で啜ってやれば、戦慄いた鴆の手が耐えられずリクオの頭をかき寄せた。
「あ、……っ、リクオ、」
気付いて、鴆に肩を押し戻される。咽せかけたのを堪え、なおも蜜の滲んだ先を舐めれば、鴆は身を退き、リクオを立ち上がらせた。
鴆に背を向ける格好で、木の幹へと縋らされる。
頬を擦り合わせるよう、後ろから抱きしめられた。二人とも既に息は荒く、どちらからともなく苦笑が漏れる。
「もう、此処には来れねえかもしれねぇな」
自嘲を聞かせて、鴆が耳打ちする。
「来ればきっと、お前のことを思い出しちまう」
リクオを抱いた手が、首筋から顎を伝って唇へと触れた。
「一人でそんなことになってみろ、到底耐えられたもんじゃねぇ」
口元を緩めて、リクオは触れてきた鴆の人差し指を口に含んだ。先にしたように舌と頬とで吸えば、背後の鴆が熱い息を吐いて、下腹を押し当ててくる。
唇を開いて、弾んだ息を逃がした。鴆の指が抜かれて、身体は勝手に次の行為を待ち焦がれている。
「そう言うんなら、鴆、」
愉悦を隠さず、リクオも言葉を返した。
「必ず、思い出さずにはいられねぇようにしてやる」
「そんなん、……これ以上、オレをどうする気だ」
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